心臓・血管(心不全、心筋梗塞、動脈疾患など)


【循環器疾患の現状と細胞治療の可能性】

心臓・血管の疾患には、心不全、心筋梗塞、動脈疾患などがあります。こうした心臓・血管の疾患には、
重症な疾患もあり最新の循環器治療の技術をもってしても予後が悪い場合があります。心臓の疾患に
関しては、本来の根治治療でもある心臓移植があります。心臓移植は、日本に限らず世界中でも深刻
なドナー不足であり、改正臓器移植法の施行以後心臓移植患者数は従来に比べ飛躍的に増えてはい
ますが、心臓移植が必要な患者全てを治療することは困難です。再生医療は、このような従来の治療
では克服できない疾患の新しい治療として期待されています。

【現在、治療や動物による研究が行われている機関】
◆ 金沢大学  ◆ 京都府立医科大学  ◆ 長崎大学

◆ 順天堂大学  ◆ 産業技術総合研究所  ◆ 旭川医科大学

【京都府立医科大学の症例】
重症心不全の患者を対象に、患者本人の心臓から採取した幹細胞を増殖させて、本人の心臓に移植し、
心臓の機能を改善させるための臨床研究が行われています。
大動物 (ブタ) の慢性虚血不全心モデルを用いた前臨床試験において、傷害心筋組織の再生を通して
失われた心機能が回復することが確認されました。この結果をもとに研究チームは臨床研究として、重
症心不全と診断された患者に対し、患者本人から採取した幹細胞を約 40 日間増殖させ、バイパス手
術に合わせて壊死した心臓の左側の一部に注射器で移植し、細胞を長生きさせる特殊なゼラチンシート
で覆う手術を行いました。通常のバイパス手術では、術後の心臓のポンプ機能を示す心収縮率(正常は
75%以上)は3~4ポイント程度しか改善しませんが、今回の臨床研究では手術前の22%から 32 %に改
善されていました。このことから幹細胞は、血管や心筋の細胞に分化したと考えられています。治療の効
果については、心臓の機能が改善し、不整脈などの副作用も出ていないと報告されています。この臨床
研究は 2010年 4月から開始されており、2012年に計画されていた 6例の患者すべてに実施され、良好
な経過をたどっています。今後に向けて、慢性虚血性心不全だけでなく拡張型心筋症など他の心疾患に
も適応できるよう安全性・効果に関する詳しい研究が現在も続けられています。


※ 幹細胞に関する様々な情報は、ヒト幹細胞情報化推進事業(SKIP:https://www.skip.med.keio.ac.jp/)や

   日本再生医療学会雑誌、各大学や施設の論文及び記事などを参照しております。